■それはまるで本物の友人のようで


木造の校舎独特の匂いと蝉の声が運んだ夏が山本の目に映る獄寺を一層綺麗にさせた。
細い指には中学の頃とは違ってたくさんのリングはついていない。
任務の時に右の中指に敬愛する沢田との繋がりを示すそれをつけるくらいで、外部への威嚇として必死に飾った時代は終わった。
それを知っている山本だからこそ、左の小指にひとつつけられた銀がいやに目についた。

「なあ獄寺、これどーしたんだよ」

聞かなくてもわかっていることだし、答えを聞けば傷つくのは自分だとも嫌というほど知っている。
それでも聞かずにはいられない自分に自嘲めいた笑いを贈る。
中学の頃のように、山本に話しかけられると眉間の皺が増えるのはもう癖みたいなものだろう。
敬愛する沢田の為に作っている試験対策のノートへと走らせたシャーペンを置くと、山本へと視線をうつした。
獄寺はあの頃のように盲目的に山本を好敵手扱いもしていないし、今では背中を預けてくれるようになった。
それは山本にとって純粋に嬉しく思えた事実。
そして、それと同時に苦しさを助長させた真実。

「あー…あいつの家いったらくれた」

大方何処かの女にあげるために買った癖にその前に逃げられたんだろうけど、と続ける獄寺の言葉の中には何処か言い訳めいたものが見え隠れした。
嘘だ、と山本は張りつかせた笑顔の下で呟く。
あまりに獄寺の小指のサイズぴったりな銀は、女へのプレゼントをまわしたとは思えない。
あの人は表立っては「女好き」を公言しているが、事実はどの女とも一線を引いて付き合っている事をこの5年で知ってしまった。
そして、山本が抱いているこの気持ちだって別段隠す気はなかったのだから、聡い彼ならば知っているのだろう。
いわば、牽制みたいなものだと山本は考えた。

「でも、獄寺によく似合うのな」

それでも、気持ちは表にはださずににっこりと爽やかな笑顔を向けて獄寺へと言葉を投げれば、彼は白い肌を朱に染めて、素直に礼を言った。
獄寺にとってその銀を贈った人物は唯一無二だった。
敬愛するボンゴレ10代目とはまた別次元にいる唯一の人だった。
いつの頃からか、銀を揺らして豪快な爆破音を響かせる獄寺に惹かれていた山本は彼がその人へと向ける視線が保護者や年上の人への憧れからだけじゃないことを気付く。
そして、その人が獄寺へ向けた視線の意味が自分のそれと酷似している真実にも。
一体どれだけの時間、互いの気持ちに気づきながらすれ違っていたのだろう。
素直になれない子供と関係を変えることを恐れる大人に並盛の秩序と呼ばれる黒い影が動かなければ、おそらく今穏やかに礼を述べた獄寺はいなかった。
自分を傷つけることをしない、沢田のために空回りをしない獄寺をみていて嬉しく思う反面、それがあの人から与えられたものだと思うと内臓が煮えくり返るほどの感覚に襲われる。

「ああ、そういえば今度付き合って欲しい店があるんだけど」
「お、いいぜー」

中学の頃とは別人のように獄寺は山本へ誘いをかける。
まるで本物の友人のように
まるで本物の親友のように
それが苦しくて山本は眉をよせて笑った。


2008/09/03


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