■サンシャイン


「そこのネクタイとって」

カーテンの向こうは快晴が広がっている事が差し込んだ光でわかった。
光は獄寺の銀と肌の白を反射させて部屋を輝かせる。
シャマルはいわれたとおりベッドの下に落ちている昨日シャマルがほどいた彼のネクタイを投げてよこす。

「ちげーよっ、ちゃんとクローゼットにはいってるやつっ」

この前置いていっただろ、と声を荒らげた獄寺は幼いころの彼と寸分も変わらない様子だ。
しかし、それはシャマルにだけみせる顔であって、本部にいる彼がそんなことはないことを雲雀から聞かされた時には腹を抱えて笑ったのを覚えている。
ついでに殴られた痛みも覚えている。
その時この数年間でますます磨きがかかった雲雀の獄寺への甘さに吐き気がした。
イタリアの狭いアパートで、何が悲しくて40を過ぎた親父とベッドを共にするのか。
ただ立っているだけで寄ってくる女はたくさんいるであろう彼に溜息をつく。
少しだけ憂いを秘めた、それでも強く立つ今の彼ならば女だけじゃなくて男だってよってくるだろう。
その体を一度でいいから堪能したいと願うだろう。
事実、獄寺が身体をつかった任務で失敗したことはなかった。
それでも、獄寺は幼いころと変わらずシャマルを選んだ。
愛の言葉のひとつも素直に吐けない、彼の感情を逆なでることしかできないような親父を選んだ。
まだ愛かなのかすらわからない時に贈ったリングは今でも獄寺の小指に光っている。
それが、シャマルには嬉しくて悲しかった。

「なー、シャマル、俺変じゃない?」

どこの娘だと茶化せばむきになって噛みついてくる獄寺が愛しくて。
力の限りに抱き締めれば、昨夜の名残り香がして欲望が首をもたげる。

「あー…やべえ、隼人、してぇ」
「なっ、ふざけんなっ!今日は大事な日なんだよっ」

今日という日はおそらく獄寺のなかで人生で一番大切な日になるだろう。
中学生のころから慕ってきた10代目が正式にボンゴレを継ぐ。
そして、獄寺がその右に座するのを許される日。
緑の瞳を輝かせる獄寺と対照的に、シャマルの心は暗い闇へとはまる。
その理由のつかない靄に頭をひねればシャマルの唇を獄寺のそれがかすめた。

「今日は無理だけど次に会う時は…な?」

可愛くくちづけられてしまえばそれ以上追うことも出来ない。
子供のころにした様に、彼の銀髪を撫でれば綺麗に微笑んでシャマルに背を向けた。
細いその背に背負った罪は、はたしてどれだけのものだろうか。
閉じた扉の音に、雲雀に対して感じた吐き気を思い出した。
それは同族嫌悪。
自分が対外獄寺に甘いことを気付いてしまった。
だからこその、叶わない不毛な気持ちを。


ああ、俺は、
本当は、この世界にお前を置きたくなかったんだ。


呟かれた言葉は前だけを見た獄寺には届かない。
どうか、どうか、その身を投げ出さないでくれという願いは朝の光だけが知っていた。


2008/09/07


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