※DV表現注意
体中の筋肉が悲鳴を上げる。骨が軋む。
それでもまだ、精神だけは保っている。否、保たされている。
ふざけていると、獄寺は笑った。
その刹那を雲雀は見逃さない。
「なに、まだ笑えるんだ」
いいね、君。
嬉しそうに笑った雲雀は、獄寺に繋いである鎖を勢いよく引っ張る。
そうすれば自然の摂理で獄寺の体は雲雀の腕の中にすっぽりと収まってしまう。
背筋が凍った。
と、同時にみぞおちに重すぎる痛みが入る。
「か…はっ」
喉が損傷しているのだろうか、それとも内臓がつぶれてしまったのだろうか、せき込む毎に真っ赤な鮮血が床を汚す。
苦しそうにもがく獄寺に、更なる恍惚の顔を見せた雲雀は傷ひとつ付いていない己の腕を伸ばす。
抵抗しようと鎖を鳴らすが、後ろ手で縛られているこの状態では何も意味をなさない。
ただ、耳触りな音がコンクリートの壁に反響するだけだ。
「や、めろっつってんだろ…!」
「それでやめる人間、居る?」
馬鹿じゃないの。
雲雀は獄寺の頭に己の足を勢いよく乗せた。途端に近付く床、獄寺が先程吐き出した血を吸って赤黒くなっているそれは冷たい。
頭の上に乗せている足にどれだけの体重をかけているのか、どんなに獄寺が動こうともがいてもそれは叶わない。
こんな筈ではなかった。
獄寺は己の失態に泣きそうになる。
「ねえ、泣かないでよ」
心底残念そうに言う雲雀に怒りが募る。
この状況にしたのは誰だ、まだ怒鳴る余裕があった。
「もう10代目に顔向けできねー…」
自分の身も護れないなんて、と嘆く獄寺に雲雀はぴくりと眉を寄せて不機嫌をあらわにする。
「まだ、そんな事言ってるんだ」
「う、ああっ」
更に重くなった頭の上の存在に獄寺は痛みを訴える。
しかし、そんな獄寺を気にする事もなく、容赦なく顔面に蹴りを入れた雲雀は、壁に大きな音を立ててぶつかった獄寺の髪の毛を引っ張り、傷だらけの顔を無理矢理自分の方へと向けさせる。
「君さ、ここを出られると思ってんの?」
並盛中学校の地下に隠された牢。
暗闇の世界は、血の匂いしかしない。
鎖で繋がれた獄寺の瞳に映るのはひとり。
雲雀、ただひとりだけ。
「本当に馬鹿だよね」
そのまま思い切り壁に頭をぶつける。
今ので脳細胞が一体いくつ死んだだろうか。
そんな事、考えても仕方がない。
結果をわかってもどうしようもない。
荒い息を吐く獄寺にだってそれくらい、わかっていた。
いつもの日常の延長線、彼が愛用しているトンファーで気絶させられ次に目が覚めた時にはここに居た。
暗闇の空間、血の匂い。
拘束された腕と痛みしか与えられない世界。
もう、二度と出る事は出来ないなんて
そんな簡単な事、獄寺だってわかっていた。
ならば何故、抵抗するのか。
「さあ、まだまだ楽しませてね」
痛みを与えたその腕で、雲雀は獄寺の頬を優しく撫ぜた。
そして、唇をかすめるだけのキスを贈る。
と、同時に右側に衝撃が走る。
蹴られたのだろうか、殴られたのだろうか。
もう、そんな事はどうでもよかった。
「くっそ…てめ…」
わざと高圧的な瞳を向ければ、雲雀は楽しそうに笑った。
「ああ、本当に愛おしい」
次に来る衝撃はなんだっただろうか。
獄寺は痛み以上に雲雀の体温を感じながら笑う。
あの日、雲雀の強さに惹かれてしまった。
それが生涯最大の打撃。
これから先、どんな痛みを与えられてもはじめに雲雀から与えられた痛み以上のそれはないだろう。
歪んだ世界の中、愛しいと繰り返す雲雀を愛しいと、獄寺は笑った。
UNオーエンは彼なのか(9月・雲雀恭弥)