触れられた所が酷く熱を持つ。
それに反比例するように、急激に心は冷めていった。
隼人
呼ばれた声にはわざと反応をしない。
こんな駆け引きをこの男に仕掛ける事が出来るようになったなんて、成長したのかどれだけ彼が好きなのか。
いずれにしても、自分が愚かだという事だけは痛いほどに明白で。
快楽に呑まれる前に眩暈がした。
エデンの後に襲う焦燥。
今日もきっちりと枕元に置かれた五万円。
自分が欲しかった物はこれなのか、冷たいシーツは今日も変わらない。
手を伸ばしても、その感覚はただの薄い紙切れで。
先程まで求めていた温かさとは大違いだ。
好きだと五月蝿いくらいに叫ぶ心を無視した獄寺は置かれた札に口付ける。
まだだ
まだ、早い
自分が愛するよりも深く、醜く、彼に愛して欲しくて仕掛けた恋愛ゲーム。
激しく自分を抱くのは憧れの師。
揺さぶられて上げる声はただの嬌声。
伝う汗も触れる肌の熱さも、なにもかも鮮明に覚えているのにこの関係は恋ではない。
ふたりの間を繋ぐのは、諭吉五人分。
毎晩それをきっちり払っていく彼は、この状態をどう思っているのか。
決して安くはない(しかし、彼にしてみれば安いのかもしれない)値段を毎晩ただの男に置いて行くという行為は
いつもの彼を思えば充分過ぎるほどに特別を意味していた。
冷たいシーツも、無機質な札も、すべて彼から与えられたものだと思えば途端に愛しく思えてしまう。
あぁ
彼の唇に口付けて
好きだと叫べたらどれだけ幸せだろう!
痛々しい程に優しい口付けを一枚、二枚。
彼らのその後は、獄寺の手からゴミ箱へ落ちていく。
「好きだぜ、シャマル」
ゴミ箱の中の五万円に
届かない愛を吐き出した。
援助交際(10月・Dr.シャマル)