手を、優しく握られた。
あまりの温かさに目が覚めた。
「ママン…?」
いつも自分を世話してくれている優しい彼女を一番に思い出した。
薄目を開けた時に煌めいた銀色に驚きしか覚えられなかった。
ぱぁんと軽快過ぎた音が響いた。
数秒遅れてやってきたのが左頬の痛み。
じわじわと痺れるような感覚に、大きく瞳を見開いた。
「お前、何をしたかわかってんのか?」
静かに響いた声は低く、恐怖を与える。
そうだ。ランボはここまでの経緯を思い出す。
自分のシャツに付いた返り血と、ターゲットの腹を撃った時の悲痛な叫び。
そして、その後直ぐに響いた爆発音。
苦しみ、助けを請うターゲットに何をする事も出来ずにただ立ちつくしていたランボの瞳を暗闇で塞いで、一瞬強く抱きしめられた。
懐かしい、優しい温かさがした。
それから直ぐにボンゴレの本部に戻された。
先程、温もりを与えてくれた彼は今度は鬼のような顔をしてランボの頬を叩いた。
「命令違反、独断行動、挙句の果てに任務失敗」
連なる違反の数々に、一気に血が落ちた音がした。
そうだ、と現実に戻る。
先程、自分が何をしてしまったのかまざまざと見せつけられた。
「お前、わかってるな」
響く声は判決の木槌。
懺悔も言い訳も出来ないで震える事しか、ランボに能がなかった。
冷たい声に子供だと知りながら、それでも瞳をきつく閉じた。
と、同時に再び温もり。
「…え?」
「心配させるな」
十代目も心配してたぞ。
柔らかい、でもどこか不器用なその声は懐かしい日々を蘇らせる。
そうだ、この人はいつもそうだと、ランボは思い出す。
彼は誰よりも優しい。
しかし誰よりも不器用で、幼いランボは彼が酷く嫌いだった。
強い力を持っている癖に本気で自分に向かってきて
些細な事で怒って、苛立って、叫ぶ彼が嫌いだった。
そのくせ沢田には尻尾を振って笑うのだから気に食わない。
ずっと、そんな嫌な人間だと思い込んでいた。
思い込んで、いたかった。
真実は酷く優しくて狂おしくて、愛しすぎたから。
「獄寺氏…」
認めて欲しかった。
どうにかして、ボンゴレの右腕と呼ばれるようになってしまった彼に追いつきたかった。
どんな些細な言いがかりでも良い。
どんな酷い怒りでもいい。
彼の瞳が、自分に向いて欲しかった。
出来る事なら、自分を認めて欲しかった。
そんなランボの気持ちは暴走して、まだ様子見だったファミリーの元へ彼の足を向かせた。
この任務を華麗にこなせば、彼は褒めてくれると。
よくやったと、頭を撫でてくれると。
こっちを見てくれると思ったから。
確かに、今、彼の瞳に自分は映っている。
しかしそれは、あまりにもなさけない姿で。
「ごめんなさい…」
自然に口から零れた謝罪は涙に溶けた。
あの日から変わらない香水が、やけに優しくランボを撫でた。
ラスノート(5月・ランボ)