日本語を教えて欲しい、と彼が言い出すのはなんとなく予想がついていた。
しかし、それはただの「予想」だ。
理由など、獄寺が知る所ではない。
だから、獄寺は問い返した。
「なんで俺になんだよ」
獄寺の言葉はストレートだ。
もともと、日本人からすれば異国の者の言葉は全てそう聞こえてしまうだろうが獄寺の言葉は特別に鋭い。
それは、彼の幼少時期の環境に起因するのかもしれないと、
勝手に仮定して勝手に結論付けたスパナは彼と同じように自身もストレートに返す。
「ハヤトはウチと同じ外人だから」
イタリア生まれのイタリア育ちである獄寺。
もともとボンゴレの本拠地はイタリアだ。
獄寺がわざわざ日本語を覚える必要はなかった筈だ。
しかし、彼はこうして今巧みに日本語を操っている。
砕けた表現が多い言語を、まるで母国語のように流暢に喋る彼に教われば自分も同じように操れると、スパナは判断したようだ。
「頭の作りは違うだろ」
自他共に認める優れた頭脳を持つ彼は馬鹿にしたように鼻で笑う。
瞬間、それ以上言葉が続かなくて口の中の飴を所在なく舐めた。
獄寺隼人は頭がいい。
しかし、それは机上の学問に置いてだけで人の感情に対しては鈍感だ。
盲目的な敬愛を捧げる主がはじめ、ボンゴレになる事を拒んでいたのを理解出来なかったように
彼は自身に向けられる感情に酷く鈍感だ。
それは、敵意も好意も平等に。
だから、スパナの言葉の裏側に隠された想いに気付かない。
気付けない。
無意識のうちに気持ちを弄び、放り投げる。
「でも、ウチはハヤトがいいんだ」
苦し紛れに好意をそのまま言葉に乗せる。
しかし、ストレートにぶつけた気持ちは、獄寺をすり抜けた。
「だから、別に俺じゃなくてもいいだろ?」
「俺、教えるのヘタだってお前も知ってるじゃねーか」
死刑宣告のように、残酷にゆっくりと。
獄寺はこの国の言葉を紡ぐ。
それはスパナを的確に打ち抜いて、屈服させた。
喉に張り付いた飴が、焼けつくほどに甘く感じた。
ジャパニーズ・ランゲージ(3月・スパナ)