腕のタトゥ
煌めく金髪
唸る鞭
その全てが嘘ならば、どれだけよかっただろうか。
ひとつのテーブルを挟んで獄寺は彼と向き合う。
ワイングラスをそれぞれにひとつ
小さなチーズとクラッカーを摘みにして
話すべきことはこれから先。
「で、ちゃんと持ってきたのかよ」
威嚇するように睨めば、彼は変わらない笑顔で脇に控えていたロマーリオを呼ぶ。
差し出された書類は薄い。
ざっと目を通して、自分が求めていた情報かを識別する。
「…上出来だ」
「これくらい直ぐ出来るぜ―」
なんていったってキャバッローネだ。
自分のファミリーを自慢した彼はグラスに入った赤に口を付ける。
獄寺は受け取った書類をしまうと、グラスには視線すら与えずに椅子を引いた。
「え、おい、帰るのかよ?」
クラッカーに手を伸ばした彼は驚きと困惑で眉を下げる。
まるで置き去りにされる子供のようで、獄寺は一瞬迷う。
しかし、それは本当に一瞬の事。
直ぐにいつものように彼を睨んで、言葉を投げる。
「こっちは忙しいんだよ…」
半分本当で半分嘘。
ボンゴレの右腕という立場はとても忙しいが、彼と酒を飲み交わす暇すらないわけではない。
しかも、今日は彼との取引だといって沢田の元を離れた。
仮にも同盟ファミリーのボスなのだ。
こんな短時間で取引を終わらす必要はまったくない。
それなのに、どうしてこの足は逃げようとしているのか。
「そんなに寂しかったのか?」
「はあ!?誰が…!」
反論を返そうとするが、それ以上言葉が続かない。
まるでなにもかも見透かしたかのような彼の瞳は獄寺を射抜く。
腕を掴まれている訳でもないのに、動けない。
「なあ、隼人」
ゆっくりと彼が立ちあがる。
獄寺の側に並び、その銀髪をあやすように撫でた。
そして極め付けに、優しい微笑み。
「今夜は一緒に居れるんだろ?」
今度こそ、言葉が出なかった。
彼、ディーノと獄寺の関係は恐らく恋人。
しかし、獄寺の中ではそれを否定し続けてきた。
確かにディーノの事は好きだ。
しかし、それを認めてしまえば残るのはただ虚しい寂しさと切なさだけで。
彼に振り回される自分が嫌いだった。
思い通りにならない己の気持ちが怖かった。
触れられただけで、こんなにも泣きたくなるだなんて。
降ってきた口付けに、獄寺は諦めたように瞳を閉じた。
Please, stand by me(2月・ディーノ)