まるで一昔前のゴールデンタイムにやっていた馬鹿らしい企画を彷彿させるような彼の強さに獄寺は酷く苛立ちを覚える。

「好きだ!タコ頭!」

その感情に一欠片も疑いもなく、そのままの言葉で真っ直ぐ射る。
弓は俺の専売特許だ、お前は拳で勝負しろと変な方向の事を考えてしまう程に今の状況に獄寺は付いていけない。
真っ直ぐと自分を見た瞳はやけに強くて、恐ろしい。
澄んだ瞳に映った自分はなんだかやけに醜い存在に思えた。

「あのさ…言ってる意味、わかんねえんだけど…」

数秒の空白後、獄寺の口から出てきた言葉はへたれなものだ。
わからない、訳がない。ただ言葉通り受け止めればいいだけだ。
しかし、獄寺はそれを拒否するように彼の言葉を否定した。

「だから言っているだろう?お前が好きだと」

しかし、彼は強い。
否定された言葉を簡単に復活させてしまう。
獄寺が見ないようにした感情を更に強く返してしまう。

「…どうしてだよ」

自分と彼の間にそういう関係になる要素はあっただろうか。
否、ないだろう。
恋愛シュミレーションゲームの王道のような喧嘩は繰り返していたけれどもまず性別で躓く。
好きかも知れないと意識する対象にもならない筈だ。

「さあな、俺にもわからん」

至極あっさりと返された言葉に獄寺は絶望しか感じない。
そんな不確かなものを、そんなふわふわしたものをどうして信じろというのか。
話にならない。
彼の真っ直ぐ過ぎる瞳から逃れる為に、背中を見せた。

「獄寺!」

呼ばれた名前に足がすくむ。
心臓が五月蠅い。
本当はわかっている。
彼が自分にそうであるように、自分も彼に同じような好意を抱いている。
しかし、こんな感情は泥に塗れて消えてしまわなくてはいけないのに。
永遠などないと、愛ほど不確かなものはないと知っているというのに。

「…ふざけんなよ」

唇を噛んだ。
掠れた声が出た。
涙が、零れそうだ。

背中を見せているというのに、獄寺を貫いた瞳は強い。
受け止めきれなかった重いそれは、獄寺の足にまとわりついて離れない。


いっそ、全てを吐露してしまえれば。
握りしめた拳が痛かった。



無意識の罪(8月・笹川了平)



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