■彼の好きなもの


和室
日本酒
雲雀恭弥の好きなもの。

その中に、一年に一度だけ赤が混じる。
熟成されたそれは一目見て高級だとわかる代物。
いつもは決して使うことのない背の高いグラスに注げば、それは好みの香りを放つ。

「うん、合格」

赤を口にした雲雀が口元に弧を描く。
それに、目の前の人物は満足そうに笑った。

「毎年苦労するんだぜ。お前が気に入りそうなワイン探すの」

彼―獄寺は雲雀に贈ったのと同じワインを口にして、自分の味覚に間違いがなかったことを喜ぶ。
和物が好きな雲雀が初めてイタリアに渡った時、食文化で苦労したのは記憶に新しい。
初めにあたったワインがあまりいいものでなかったのも理由になって、彼の愛国精神がやけに強くなった。
そんな雲雀にみかねて、毎年獄寺は彼の誕生日に異国の酒を厳選してプレゼントする事に決めた。
自分が育ったイタリアでも有数の良いワインを。
彼の舌は確かにいいワインを選別しているようで、雲雀は一年に一度、この日だけはワインを口にする。

「今回のはあまり聞かない名前のだね」
「おう、掘り出し物だぜ」

銀髪の髪に碧の瞳。
日本とはあきらかに違う国の血を引いている彼は薄紫の着物に身を包んで雲雀の前でくつろぐ。
その着流しはやけに艶めかしくて雲雀は過去何度も感じたことがある眩暈を今日も覚えた。

「隼人」

彼の名を呼べば素直にこちらへ引き寄せられる。
細い腰に手を回して自らの膝を跨がせる。

「なんだよ、もうやんの?」
「君が僕を酔わせるからいけないんだよ」

いつもの日本酒よりも、毎年のワインよりも彼の存在は雲雀を酔わせる。
首筋に吸い付けば甘い香りを放つ。
一度着付けた薄紫を脱がせるのは少しだけ残念だけれども、彼は何も着ていなくても雲雀の目に綺麗に映った。

「誕生日おめでとう、ヒバリ」

深く口付ける刹那、獄寺は愛おしそうに微笑んで祝いを述べる。
雲雀は柔らかく微笑んで、その言葉を飲み込んだ。

銀の髪。
碧の瞳。
獄寺隼人。

雲雀恭弥の好きなもの。


2009/05/07



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