■No.000


※オフ発行したNo.666の設定引きずってます(読んでなくて全然大丈夫です)
※ヒバリと骸が獄寺に協力してる設定でした
※へたれってか弱いシャマルが居るよ!


その年の2月9日は休日だった。
暦の作りを考えれば決して珍しい事ではないが、そのせいで獄寺は爪を噛んだ。
事の起こりは数時間前に遡る。
まだ陽が頭上にあった午後一番の眠い時間。
いつも通り、中学校の保健室でニコチンを肺に取り込んでいた獄寺は自分に背を向けて座る人物へ出来るだけ自然に言葉を投げた。

「なぁシャマル、明日家いっていいか?」

別に特別だなんて思ってはいないが、彼の携帯メモリーにひしめいている女に取られるのは癪だ。
きっちり5ヶ月前の時は、日付が変わる直前にきて獄寺が雑誌を見て欲しいと呟いたネックレスを贈ってくれた。
あの日からその銀は肌身離さず彼の首に輝いている。
その礼くらいしないといけないと、ただ彼と同じ時間を過ごしたいという本心を隠すように自身に言い訳をした結果の言葉だった。
書き物をしていたシャマルの手が止まる。
何年も使われている椅子が軋んだ音をたてる。

「隼人」

酷く冷たい声は獄寺の左胸をゆっくりと貫く。

「明日は絶対来るな」











何かを隠されている、というよりも拒絶されている感覚。
女を連れ込んでいる訳でもないだろう。
何か重要な任務でも託されているのか。
その場合なら明日1日だけというのはおかしな話だ。
何か約束があって家を留守にするのなら、そう言うだろう。

「来るなって事は居るって事じゃねぇか…」

居心地が悪くなって保健室を飛び出した獄寺が行き着いたのは応接室。
この部屋の主はどうやら見回りの時間のようで見当たらない。
それか屋上で昼寝でもしているのだろう。
彼は自由だ。
ふと数ヶ月前、彼と黒曜の生徒会長が関わった己と彼の関係をもう一度思い返す。
21歳の経験の違い。
乗り越えてきた壁の数々。
失ってきたものの大きさ。
それは獄寺には到底わからない痛みとなって彼の中に生々しく刻まれている。
その身に宿るは666という悪魔の数字。
そして、それによる数えきれない程の死。

「…あ、あいつ…」

瞬間、10月の1シーンが鮮明に思い出される。
避けられない真実と現実に向き合う事でようやくわかりあえた気がしたあの日、彼が叫んだ言葉。

「…そうか」

もう向き合えない程子供ではない。
だからといってそれをすべて受け止められる程大人でもないが、獄寺はシャマルと共に居る事を選んだ。
居心地のいい応接室のソファから立ち上がる。

「獄寺、帰るの?」

獄寺が来ている事を草壁から聞いていたのかちょうど戻ってきた雲雀は問う。
流れる月日は雲雀との関係も穏やかなものに変えていた。

「おう、邪魔したな」

獄寺達が高校生になろうとも彼だけは変わらない。
中学校の応接室から並盛の全てを見張っている。
そんな雲雀だからこそ、去り行く獄寺の背中に何かを見たのだろう。

「獄寺さん、お帰りになられたのですか?」

後ろに控えていた草壁が問う。

「あぁ…僕の所に居たって事はあの保険医関係だろうけど」
「今度はひとりで答えに辿りつけたみたいだね」

答えた雲雀は酷く穏やかに微笑んだ。











日本の四季は寒暖が極端だ。
その中で最も寒いと思われるのが、彼の生まれた月。
昔はこの月が春に分類されていたのだから不思議でしかない。
コンクリートから冷気が立ち上る。
その中で獄寺はシャマルと対峙する。
言い付けを破ったからだろう。
恐ろしく冷たい瞳をする彼は、獄寺が憧れた彼で背中に歓喜が走る。

「隼人」

呼ばれた名前が冷たい。

「来るなって言っただろ」

言い付けというよりは願いに近かった言葉。
左手に握った携帯が000を記録する。

「シャマル」

孤独な彼に獄寺は手を伸ばした。


「生きてくれて、ありがとう」


瞬間、シャマルを囲んでいた冷たい空気が揺らいだ。
蜂蜜色の瞳に光が返る。
一歩近づいた獄寺は自分よりも背の高い、21も上の大人を抱き締める。
温かいのは、彼が生きている証拠。
それがやけに嬉しくて獄寺はその唇に自らの唇を重ねる。
シャマルの頬に一筋流れたそれは見ないふりをしてあげた。


合わさった唇はそのまま深いものへと変わり、冷たい空気を溶かしていく。
2月9日が始まった。


2011/02/09



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