午後一番の授業は眠い。
程良い日差しと満腹感でうつらうつらとしている生徒が3、4人。
初老の国語教師は更に眠気を誘う声で古文を読む。
流石の草壁も瞼が重くなってきた。

遠くからリノウムの床を蹴る音が響く。
静かな空間に似合わないそれは確実に近付いてきていた。
草壁以外にも何人か気付いたのか、音がする方へと顔を向ける。

おそらく、彼だろう。

草壁があるひとりの人物を思い浮かべたのと同時に開かれた教室の扉。
春の日差しに煌めく銀は異国の色。

「あーっ!ちくしょう!草壁!アイツどーにかしろよ!!」

第一声を放った彼は草壁をご指名だ。
一瞬で教室中の視線が自分に集まる。
風紀委員をしていて、注目される事には慣れているがこれは恥ずかしい。
教師にひとつ断りを入れてゆっくりと立ち上がる。

「何をしてるんだ…獄寺」

口では問いを投げるが、彼がここにきた理由を草壁は知っている。
というよりはこれ以外に彼が自分の元に来る理由がない。

「てめぇんトコの委員長様、どーにかしろよ!」

草壁の言葉にかぶせるように、獄寺は叫ぶ。
予想通りの言葉過ぎて草壁は小さく溜息を吐いた。

「無理だ」
「はぁ?!お前副委員長だろ!?」

確かに副委員長ではあるがそれは風紀委員会の中で大きな地位ではない。
下の者を纏める為に必要なポジションではあるのだろうが、だからといって上である雲雀に何か発言していい訳では決してない。

「委員長は委員長だからな」

それがいたって自然だという草壁の言葉に獄寺の脳は沸く。

「あいつ、リボーンさんからの指示も十代目からの指示も全部無視しやがったぞ」
「委員長だからな」
「んだよそれ!あげくのはてに文句言いに言ったら俺の事なんて見もしなかったぞ」
「委員長だからな」
「…それ言えばすまされるもんじゃねぇからな」

すべて理由は「委員長だから」。
草壁だって雲雀以外の事ならばこの一言で済ませる気はない。
しかし、雲雀という存在は草壁にとっても並盛にとっても絶対で彼に敵う相手などひとりとしていない。
彼がルールなのだから。
ふと、自分の目に映る獄寺について気付いた点が数点ある。
もしかしたら、これが雲雀の感覚を刺激しているのかもしれない。

「なら獄寺、お前も服装をしっかりするとか」
「嫌だ」
「煙草を止めるとか」
「嫌だ」
「…遅刻しないとかな」
「嫌に決まってんだろ」

丁寧に述べた注意点を全て一蹴されてしまう。
なんて我儘なのか。
自分のスタイルは変えずに相手が変わる事を望む真っ直ぐな少年は
少しだけ、彼の人を思い出させた。


「本当…よく似ているな」
「はぁ!?お前喧嘩売ってんだろ!?」



01.これは、あれも、それも


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