■その理由
※夕香ちゃんと鬼道さん
「お兄ちゃん、凄いシュートだった!夕香明日学校で自慢するんだ!」
試合を観に来ていたという彼女はきらきらと瞳を輝かせて豪炎寺を褒め称える。
どういう訳か俺は今、彼女と二人で試合の終わったグラウンドに立っている。彼女の兄である豪炎寺からちょっと監督と話があるからその間彼女を見ていて欲しいと言われ、こういうのは円堂や風丸の方が得意だろうと一度断ったのだが「鬼道がいいと、夕香が言うんだ」という台詞を投げつけられて置き去りにされた。
俺は彼女と会ったのすら初めてなのに。
一体彼女は何を持って俺を指名してきたのか。
「ねえ、鬼道お兄ちゃんってなんでゴーグルしてるの?あとマントもどうして?」
ああ、こういうことかと納得した。
「俺自身」に興味があるのではなくて「俺が身につけている物」に興味があったのだ。広いフィールド上でも目立つのだろう。俺を見上げる彼女に幼い頃の春奈が重なる。
しかし、なんて言えばいいのだろう。
ゴーグルは見るべき所を見るためだとか、マントは相手の意識を拡散させるためだとか、そんなまっとうな理由を彼女に伝えて伝わる訳がない。ただ首をかしげるだけだろう。
「ねえ、どうして?」
屈託ない笑顔で問う彼女の前で必死に知恵を振り絞る。
ふと、ひとつの―根本的で大きな理由を見つける。
ああ、これなら彼女にも分かりやすいだろう。
「大好きな人が、くれたからだ」
いつのまにか戻ってきていた豪炎寺がやけに苦しそうな顔をしていた。