■リプレイ

「では今日の練習はここまで!」

一列に並んだ選手たちが佐久間の声で一斉に頭を下げる。
まったく同じ角度、ひとりとして遅れもしない、早すぎもしないタイミング。
ふと、10年前は自分もこの真ん中に居た事を思い出した。

「ありがとうございました!総帥!」

朝から今まで動いていて疲れているだろう。
それなのに緩む事のない緊張感に鬼道は満足気に微笑んで彼らに背を向けた。
その後ろを同じ速度で佐久間が追う。
解散を言い渡された彼らは中学生相応の顔に戻り、友人同士の会話を楽しんでいた。

「昔の俺たちみたいだな」

同じ事を佐久間も思ったのだろう。
彼の言葉にひとつ頷きを返す。
しかし、感傷に浸る暇はない。
次の試合で選手たちがベストなコンディションでプレイ出来るように策略を巡らせる。
成長期の彼らは与えたプランを熟しても予想と違う結果を出してくる。
ひとつ間違えばチームとしてのバランスが崩れ、共倒れになってしまう。
現在帝国学園サッカー部の監督を任されている佐久間と長い廊下を歩きながら反省会を行う。
あの時の技は上手く出来れば必殺技になる。
これならば化身を使わなくてもいいのではないか。
沢山のもしもを繋ぎ合わせるこの時間は楽しい。

「あそこからシュートが決められれば点が入る確率はぐんと上がるんじゃないか?」
「いや、御門はもう十分だろう。これ以上強くなってもまだ他の選手とのバランスが…」

会話の途中、彼は自然に左を向いた。
それを佐久間は見逃さない。

「……鬼道」

酷く苦しそうな顔をした佐久間に自身の動きを自覚したのだろう。
彼は眉を下げて笑った。

「……ああ、すまん。つい、癖でな」

その言葉に佐久間は唇を強く噛んだ。
その姿を見て見ぬふりをした彼は、あてがわれた部屋へと戻る。
センサーで開いた扉の向こう、異質な空間は10年前から変わらない。
あの時から変わらず聳える玉座に座るは今は己。
それなのに、彼は一度深々と頭を下げた。

「ただいま戻りました、総帥」

そこに彼は居ない。
その称号は今は彼のもの。
それでも、彼はあの日々を繰り返す。
彼に背を向けてしまったあの日を取り戻すかのように、何度も、何度も。

「さあ、佐久間。最後の調整だ」

一瞬のみの亡霊との邂逅。
しかし、佐久間には彼の足に鈍い鎖が見えた。
その鎖の端を持ち、笑っている彼は玉座の左。

「……ああ」

かつて、彼が座していた玉座に腰掛ける。
右に佐久間が立つ。
恐らく、左は永遠に空白のまま。


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