■似た者同士

※夏未ちゃん→円堂 鬼道さん→影山総帥 前提の鬼夏
婚約者を探さないといけないみたいなパーティーでの一シーン


高級なソファの上で頭を抱える。はっきりとはわからないが、眉間の皺は深く刻まれているのだろう。奥歯が削れてしまいそうな程ぎりぎりと噛みしめた口元は事がどれだけの大きさなのかを痛い程主張する。

「…なんてザマよ」

背もたれに腰をかけると、それだけでこのソファがどれだけいい品物かを知る。ドレス越しの感覚にあとでブランド名を聞いておこうと逃避に似た思考を巡らした。
そんな空気をどうにかしようと高圧的に言葉を吐いても、それはどこか上滑りに終わる。あなたの眉間の皺が緩むこともない。

「そんなに苦しむなら養子を貰えばいいじゃない?」

かつて、あなたのお父様がそうしたように。
財閥を継続させていくには血の繋がりはとても大切で重要視される事は理解しているけれど、現にあなたとお父様の間に血の繋がりは爪の先程にもない。どうして養子という選択肢を選んだのか詳しくは知らないけれど、他の財閥とは違ってそこは緩いようだし。

「無理だ…」

それでも、あなたは首を横に振って否定する。
まあ、なんとなくわかっていたけれども。
貰われてきた、育てられてきた、鬼道の名にふさわしいようにと生きてきたあなたにとって子を成して鬼道の名前を継続させる事はどうしても切れないのだろう。もともと養子である事に小さな負い目を持っているから、そうなってしまうのね。

「わかってるんだ…いつかはそうなるだろうって事も、わかった上で断ち切れない。わかっていても、この感情にずっと浸っていたいんだ…」

自嘲に似た笑いは数年前に命を落とした彼の人に似ている。
私は、彼には悪い思い出しかないけれどー彼を想うあなたの姿はまるで自分を見ているようだった。
叶わないと知りながらも手を伸ばしてしまう。彼の役にたちたいと思っただけなのに、結局見返りを求めてしまう。そんなずるくて浅ましい自分の感情よりも昇華された綺麗な。

「…あなたの子供なら産んであげても、よくってよ」

無意識のうちにこぼれた言葉に、あなたの瞳がさらに丸くなる。綺麗な赤。その赤に映った自分は、酷い顔をしていた。

「…意味をわかってるのか?雷門夏未」
「失礼ね。それくらいわかっているわ」

この言葉がどれだけ重いかも、それでもこれがおそらく貴方を救えるただ唯一の方法。
雷門も鬼道も名門よ。そこが手を組めば他の財閥以上の力を手に入れる事が出来る。新しい事業も拡大できる。もう、あなたを養子だったなんて思い出すような人もいなくなる。(そんな事をしなくても、あなたは凛とした態度で素晴らしい財閥の若だけれども)
ソファの背の部分から降りて、彼の隣に腰掛ける。肩が震えたのは、今までとは違う世界で私を見たからだろう。

「貴方にはたくさん貰ったわ。円堂くんの事でも…だから何かしてあげたいの」

叶わない恋をそのままでいいと、それでも大切にしてくれる人間はーあなた以外に考えられない。
そして、あなたも癒えない傷とこれから来る迎えを心待ちにしているなんて私以外に言えないでしょう?
瞳で訴えかけると、涙をこらえて一層険しい顔になったあなたは謝罪ばかりを繰り返す。

「すまない…すまない…、すまない…」

どんな時でも泣き顔なんてみせなかったあなたを抱きしめる。その根源は愛でも恋でもないけれどー(いうならただの既視感だ)


鬼道


控え目な泣き声に交じって、私の耳にまで彼の人が呼ぶ声が聴こえた気がした。


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